安全、安心の場

「旅する朗読」を振り返ってみると、2日間で最も印象的だったことは、初日の講義だ。何せ「伊豆の踊子」ですからね。テキストにも講義内容にも飽きさせない工夫を・・・と入念に準備したのだけれど、子どもたちに変化が見られたのは、そんな大人の都合に依るところではなかった。

実のところ、参加者の中には「保護者のススメ」で参加したお子さんが多かった。保護者の言うとおりに参加するのだから、とっても素直ではあるのだけれど「やる気」みなぎる感じではないし、大人のように忖度もしない。だから「この企画に参加した理由と楽しみにしていること」を自己紹介に盛り込んでもらったところ、ひとこと「特にありません」とうつむきがちに小声で言ったお子さんがいた。まあ、そりゃあそうかもしれないなぁと思って「お、勇気ある発言だね、正直に自分の気持ちが言えてすばらしい」とリアクションすると、そこで大きく場の空気が変わったのだ。子どもたちの顔もぱっと輝いた。

私自身が、この受け止めを「意図していた」かというとそうでもなく(苦笑)、ただこの企画の大事なことは「感じる」ことであって「上手く朗読することではない」という信念にも近い思いがあったので、その子が素直に自分の気持ちを表現できたことが嬉しくてそう言ったのだ。しかし、このリアクションから、明らかに子どもたちの対話がどんどん増えていった。この場では何を言ってもいい、何を言っても聞いてもらえる。そう思ってくれたのだろう。そして、初日の対話の多さが、翌日の天城ハイキングにも発表にも繋がっていった。終了後のアンケートでは、ほとんどの子どもたちが「また行きたい」「次回が楽しみ」と書いてくれた。

ファシリテーションもそれなりに学んできたし「安全、安心の場づくり」の大切さは、頭でわかっていたのだが、出来るかどうかは別物だ。「場数だよ」と言われても、うーんと唸ってしまうこともある。だけど、こんな風に思いがけず目の前に「求めてきたこと」が見えることもある。それが嬉しくて、私はまた新たなチャレンジを重ねていくのだろう。

天城から三島に帰るバスの中で、山根さんが紹介してくれた一冊。

奈良の少年刑務所で、絵本と詩の教室の講師を務めた寮美千子さんの記録である。

服役中の受刑者たちが、表現することを通して変化していく様子には、驚くばかりだ。寮さん自身、最初は、奇跡のようだと思ったというが、関わる皆が変わっていくことから、決して奇跡ではなかった、とまとめている。心の扉を開くのは安全、安心の場で、無理強いや評価は要らないとも仰っている。

研修講師として、朗読指導者として、ファシリテーターとして、インプットの毎日だが、このストンとハラオチした経験は、大きな力になったし更なるチャレンジへの弾みになった。ま、先ずは宿題提出からやりますわ😄

 

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