「ご縁」とか「タイミング」とか

先週、勉強会参加のために日帰りで上京したのだが、途中、2時間ほど、空白の時間が生じたので「時間貧乏性」の私。会社員時代、とりわけ20代でアナウンサー・記者として仕事をしていた頃、とってもお世話になった先輩に連絡し、お会いすることが叶った。昨年も、上京時にふと会いたくなって連絡したら、時間を作ってくださったので、ほぼ1年ぶりの再会だった。

私は「アナウンサー」になるために、北は北海道から南は九州まで50社ほどの試験を受けて(つまり40社以上、不合格だったわけだが)最後に入社できたのが、偶然地元のテレビ局だった。元々、地元局に入社するのが一番の「夢」だったが、静岡にはNHKをのぞけば4社しか民放はなく、春先の試験で3社は既に不合格。28年お世話になった会社だけが、なぜか?秋口に急遽、試験を行ったのである。運命と言えばそうかもしれないし、偶然と言えばそうかもしれない。ただ、私には「ふってわいたラストチャンス!」であることは確かで、ここがダメならば、就職浪人して、翌年は教員採用試験を受けようと思っていた。

履歴書に「尊敬している人」という欄があって、私はそこに、先輩の名前を書いた。「一人が好きなのに、さみしんぼう」の私にとって、ひとり暮らしの東京での毎日を支えてくれたことのひとつが、先輩の存在だった。全国放送の朝の番組で、富士山を背景に先輩が明るくリポートする姿に、私はふるさとを思い出しながら「今日も一日、頑張ろう」と思ったものだ。誰かを笑顔に出来たり、勇気を与えられるアナウンサーになりたい!私は迷うことなく、先輩の名を「尊敬する人」の欄に書いたのだ。

先輩は今、アナウンサーを目指す若い方々の支援の仕事などをしている。お訪ねしたら、ちょうど、そんな学生さんと面談中で、私も巻き込まれた。(先輩は場創りのプロでもある)

「けいこちゃんの入社試験の時のこと、覚えてるよ。赤いスーツだったよね」

先輩の記憶力たるや、30年以上前のことなのに…ありがたいことである。私は、紺とかグレーとか、どちらかといえば地味目なトーンの服が多かったのだが、アナウンサー試験を受けるにあたって、思い切って買った「ローズピンク」のスーツで試験に臨んだのである。カメラテストを兼ねた試験では、試験官のベテラン男性アナウンサーに「アナウンサーになったら、何をしたいですか?」と最後に問われて「何でもやります!水着になる以外は」と答えたことも、今でも鮮明に覚えている。

先輩は続ける。

「とにかくこの子は、根性がありそうだ、と思ったんだよね」

ラストチャンスにかける意気込みが伝わったのか、破れかぶれだった私の「圧」が想像以上だったのか、ちょうど会社が、地元出身者で、堅実なタイプ(スポーツや報道志向の喋り手)を欲していたこともあったのか、まさかの「合格」を掴み、アナウンサーとしてのスタートラインに着くことが出来たのである。

アナウンサーという職業への人気は一時期ほどではないとはいえ、それでも、局アナとして就職するとなると、採用人数が少ないので、競争率は高い。先輩の元を訪ねてきていた女子学生が、悩ましいのもよくわかる。でも、就職も、ある意味「ご縁」であり「タイミング」であり、私のように「ド根性」が採用理由だったり、たまたま秋まで粘り強く就職活動を続けていたことなどが、功を奏すケースもあるのだ。

「けーこちゃんから、何かアドバイスしてあげて」

そう先輩から投げかけられて、私が伝えられることは何だろう?と考えて、こう話す。

「もちろん、思ったように夢が叶ってアナウンサーになれるならば、こんなに嬉しいことはない。だけど、もし、もしもだよ。それが叶わなかったとしても、落ち込むことはない。ただ、その会社とはご縁がなかったというだけのこと。大事なのは、持てる力を全部出して、一生懸命のぞむこと。それこそが、人生を支える大きな大きな力になるからね。私も、〇〇さん(先輩)が知っての通り、まあ不出来なアナウンサーだったけど、出来ないながらも一生懸命ではあったから、アナウンサーではなくなった時も、会社をやめた今も、悔いはないかな。悔いのない就活になるように応援しています!」

女子学生は、体育会系と言うこともあり「はいっ!」と力強く返事をし、先輩は、相変わらず「ド根性だな」と思ったのか、私をちらりと見てニヤリとする。

「お前は何かを背負っている時こそ、オモシロイ。楽している時は、つまらない」

会社員時代、先輩が私によく言っていたこと。

今回も悩める学生指導という「ムチャぶり」で、私に発破をかけてくれたのだろう。

就活も、ご縁とタイミングだけれど、憧れの先輩に、会社を卒業してからも、こうして指導していただけるのは本当にありがたいことだ。急に訪ねたくなったのも、顔が見たくなったのも、そういうタイミングだったのだろう。

帰途の新幹線で、先輩からのメール着信があった。

「頼もしくなったね、今度はゆっくりご飯でも食べようね」

「はいっ!」と心の中で威勢よく答える私が、悩める女子学生の返事と重なった。

 

 

 

 

 

 

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